夏をリアルに楽しむ  
 
 
      
 4月の始業式、入学式以来、3か月余りが経ちました。新入生のみなさんにとっては初めてのことばかりで、戸惑いや不安を感じることも少なくなかったと思います。また一方で、新しい友との出会いや出来事、新たな発見などにわくわくしたり、感動したりすることもあったことでしょう。2年生以上の生徒のみなさんはどうだったでしょうか。1学期を振り返り、「これは自分なりに頑張れた」と自信を持って言えるものがあるでしょうか。私自身は11年ぶりに本校で勤務することになり、日々新鮮で充実した毎日を送ることができました。 
 
 さて、「時は金(かね)なり」 ということわざがあります。もともとはTime is money.という西洋のことわざだそうです。時間は貴重なものであって、金銭と同じように大切で価値があるのだから、浪費するものではないという戒めです。私たちの一生に与えられた時間は限られており、その長さは人によってそれぞれ異なります。人はこのことを本能的にわかっていながら、あまり時間の大切さを意識することなく日々を過ごしてしまいがちです。夏休みを迎えるにあたり、決して取り戻すことのできない「時間」と私たちの生活スタイルについて少し考えてみましょう。   
 
   
  校長 髙橋 伸二   
   
 今や私たちのほとんどが、毎日当たり前のように使用しているスマホや従来型の携帯電話、パソコン、タブレット等の通信機器は大変便利な機能を備え、私たちの生活を助けてくれます。しかし、一方でこれらのものが私たちの生活時間に入り込み、数々の問題を招く原因を作ってしまうツールともなっています。

 京都大学大学院准教授の木原雅子氏が平成26年度に約6,600人の高校生を対象に実施した調査によると、スマホを所持している人は95%、従来の携帯電話の所持率が7.4%、パソコン35%、タブレット10%です。また、1日あたりのスマホ使用時間は約2時間が最も多く、男子27.8%、女子26.2%。2時間までは男子のほうが多く、逆に3時間以上は女子のほうが多いようです。5時間以上の人が男女平均で約13%もいるのには驚くばかりです。これでは高校生の本業である勉強の時間確保や勉強への集中は難しいであろうと容易に推測できます。本校でも家庭学習時間調査の結果が心配な数値を示しているのには、スマホ等の乱用が関係していないとは言えないように思われます。みなさんは、スマホや携帯電話等の通信機器をどのように使っていますか。

 情報教育アドバイザーの遠藤美季氏は、ネットが子どもから奪うものは「時間」だと述べています。スマホやパソコン、ゲーム機等でつながるインターネット。それは適切に利用すれば便利で楽しいのは誰もが知っています。しかし、その魔力とも言うべき力に知らず知らずのうちに貴重な時間を奪い取られてしまう人も少なくありません。遠藤氏は「暇な時間や退屈な時間は、子どもが自分と向き合い、成長するために必要なものなのです。その時間を奪えば、自分の頭で物を考えない人間を育ててしまうことになりかねません。ともすれば『心の成長』がそこで止まってしまうことにもなります。」とも述べています。

 男子30%、女子40%の者がスマホ依存の状態だと言われています。バーチャルではなくリアルな「遊び」や「学習」
「睡眠」「家族のだんらん」などの時間を奪われ、失ってしまう人たちです。ラインやメール上でのバーチャル(仮想現実の)な短い文字言葉のやりとりでは相手の顔や表情が見えず、声の調子から読み取れる様々な感情や微妙な心の変化などが伝わりません。そのため、見えない何か得体の知れないものへの恐怖や不安を感じながら、延々と時間が流れていく貧しいコミュニケーションが希薄で危険な人間関係を生み出し、さまざまなトラブルが発生するというわけです。本校で起こっている生徒間の問題も必ずと言ってよいほどに、ラインなどによる行き違いや不適切なやりとり等が原因となっています。
 明日からの夏休みは、いわゆる「暇な時間」が増えます。人が発明し、人を幸せにするはずの便利品に心と時間を奪われ、大切な青春の日々を無駄に過ごすことのないように節度ある賢い付き合い方をしてほしいと強く願っています。
 リアルな現実、リアルな夏を思いっ切り楽しんでください。

 
                            
   ***** 以下の資料もぜひ読んでみてください *****

【参考資料1】
 スマートフォンを頻繁に利用する高校生の間で、スマホに対する依存度が高いと、心身の不調を感じる割合が約3倍になることが、埼玉県立春日部高校の村井伸子養護教諭の調査で分かった。
 村井教諭は、2013年、県内の高校生約600人を対象に、携帯電話の使用目的や時間のほか、心身の自覚症状など約70項目を4段階の程度に分けて回答してもらい、数値化。その結果、高校生の9割がスマホを持っており、1日3時間以上使用する生徒が6割いた。無料通話アプリ「LINE」は4人に3人がほぼ毎日使っていたほか、ツイッターは6割が閲覧していた。
 心身の不調では、「眠い」「目が疲れる」「昼間でも横になりたい」などの項目で数値が高かった。スマホへの依存度が高い上位25%のグループを、残り75%と比べると、不調を示す数値で約3倍の差があった。                        (2015年7月14日 読売新聞記事より)

【参考資料2】
 そんな「ネット依存症」の状態に疑問を持ち、ネットにつながらない時間を意識的に作る「ネット断食」が広がっている。
 「デジタルデトックスのすすめ」(PHP研究所)の著書がある編集者、米田智彦さん(41)は昨秋に1か月間、「ネット断食」をした。それまでは毎日12時間ネットにつながる日々だった。「病気で寝込んでネットができなかった時、気持ちが楽なのに気づいた。人にうけようと発信し続けることに疲れていたし、集中力や熟考力が薄れ、本を1冊読み通せなくなっていたことにも危機感がありました」
 ネットの使用時間を洗い出し、ネット上のつながりを整理。メールチェックは1日2回にし、人と会うことを増やした。すると、時間や集中力が戻っただけでなく、心の持ちようも変わってきた。
 「ネットの情報と違い、実体験は五感をフル活用し、自分の身となる。それに、他者の承認をよりどころにすると、いつまでたっても自分に満足できない。ネットに振り回されていた人生のかじ取りを、自分の手に取り戻した気分」と語る。
 子どもの世界でも、「ネット依存症」が約52万人と報告されている。文部科学省は今夏から、自然の中で人と触れ合う合宿「ネット断食」を実施する。
 ネット依存症の専門外来を作り、国のネット断食の計画作りに携わる久里浜医療センター長の樋口進さんは「実生活での経験値が少ない子どもは、ネットの世界が全てだと錯覚してしまう。生身の世界で心を動かす体験をし、世界にはネット以外にも色々な選択肢が広がっているのだと気づいてもらいたい」と語る。
 パソコン断食を行う企業もある。宮城県角田市に本部を置く生活用品の製造卸会社「アイリスオーヤマ」は2007年、個人の机からパソコンを一掃。購買部では、タイマーで1回45分に制限して別の机でパソコン作業をし、メールでの連絡を極力減らして、顔を合わせての打ち合わせを増やした。
 購買部部長の会田祐一さんは「パソコンに向かっていれば仕事をしている気になるが、本質的な仕事ができず、無駄な時間も多い。意思疎通も希薄になるため、強制的な環境作りが必要だった」と狙いを語る。
 企業でのIT断食を勧める早稲田大教授の遠藤功さんは「ネット検索で得られるのは2次、3次情報。現場に行かないとわからない1次情報をもとに、自分の頭で考える力を取り戻さないと、変化のスピードの速い国際競争に負ける」と警告する。
 自身もネット断食を行い、「ネットで『つながる』ことの耐えられない軽さ」(文芸春秋)の著書がある作家の藤原智美さんは「瞬間的に受け渡され、消費され、忘れ去られるネット言葉は、自身との対話や社会的な深まりに結びつかない。政治でも軽い話し言葉が人を動かし、目の前にいる家族や友人との対話ではなく、スマホの仮想空間のつながりに没頭して対人関係が薄くなっている。危機感を抱いた方がいい」と訴える。  (2014年8月14日 読売新聞記事より)
   
 
             
      戻る